霞ヶ関合同庁舎3号館に展示 撮影:2002年(平成14年)5月

はじめに
霞ヶ関合同庁舎3号館に昨年東シナ海で国籍不明の不審船に銃撃を受けた、海上保安庁の巡視船「あまみ」の艦橋部分が展示されている。この銃撃を受けた「あまみ」の被害状況を注意深く観察するといくつかの発見と、さらに沈んでしまった不審船の隠された秘密が明らかになった。


1.「あまみ」の艦橋の構造の検証
上の写真は、「あまみ」の艦橋部分である。上の方から、①窓の上部分、②窓ガラス部③窓の下部分と三つのパートに区切って構造や素材をチェックすると以下のことが判明した。
① 窓の上部分は、強化アルミ製で 厚さ10mm弱。・・・・・防弾能力としてはNIJ-ⅢA程度。
② 窓ガラス部分は、独特のヒビ割れから防弾ガラスではない。強化ガラスとポリカーボネートの積層板で、レース用パワーボートや、小型機、高速列車等の窓に使われる「セキュリティガラス」と呼ばれているものだ。厚さ 20mm程度 低レベルの防弾能力はある。・・・・・防弾能力としてはNIJ-Ⅱ程度。
③窓の下部分は、本来垂直に近いデザインのはずだが、写真のとおり傾斜板が取り付けられている。その傾斜版の正体は、おそらく色具合からチタンの装甲板であろうと推測される。厚さは8mmの2枚重ねで16mm程度・・・・・防弾能力としてはNIJ-Ⅳ弱程度。
この傾斜板の取り付け角度では、最も弱い窓に向かって跳弾が生ずる恐れがある。

NIJ-Ⅱ・・・・38口径拳銃弾等のやや威力の弱い弾丸を防ぐレベル。 
NIJ-ⅢA ・・・トカレフ・44マグナムを含む全ての拳銃弾を防ぐレベル。
NIJ-Ⅲ・・・・米軍のM-16やロシア軍のAK-47 AK-74等の自動小銃を防ぐレベル。
NIJ-Ⅳ・・・・自動小銃よりさらに強力なライフル徹甲弾を防ぐレベル。


2. 巡視船の防弾能力について

防弾能力については、やや中途半端な印象で、また全体のバランスが悪い点が指摘されるが、戦闘目的の海軍の軍艦と異なり麻薬の密輸や、密航による不正入出国等の取り締まり、海難救助を主目的とする海上保安庁(COAST GUARD)の船としては一般的なレベルといえるだろう。海軍と分離して沿岸警備隊を組織している国では、その装備は、取り締まりの相手が麻薬の密輸や密入国をビジネスとしているマフィアやギャングであり、ピストルや自動小銃程度の脅威に備えれば十分とされている。通常、ロケット弾やミサイル、大砲、重機関銃を使う相手への対応は、COAST GUARDではなく明らかに海軍の守備範囲である。
今回巡視船「あまみ」の艦橋には、マフィアやギャングの武器とは異なる、軍隊で使用される50口径重機関銃の弾痕が多数ある。ほかにも命中しなかったが肩うち式小型ロケット弾(RPG-7と呼ばれる旧ソ連または中国製の携帯型対戦車ロケット砲)を2発も撃たれており、今回の事件は明らかに軍事レベルの事件といえる。


3. 相手が撃ってきた武器の検証

写真 1, 2, 3,
明らかに弾痕には、大小二種類が認められる。
写真 4,
チタン製装甲板には、貫通弾痕と非貫通痕がある。また非貫通痕には、塗膜の剥離ダメージに大小の異なる痕跡が見られる。以上の観察から ①チタン製の装甲板を貫通し、更に強化アルミ製の船体も貫通しているのが50口径(12.7mm)級の重機関銃と推定される。(14.5mm ZPU-2 対空機関銃2連装と判明)
②チタン製の装甲板を貫通できず大きな塗膜剥離を起こしているのが、30口径(7.62mm)級のおそらくカラシニコフと呼ばれるAK-47自動小銃と推定される。(5.45×39.5mm AK-74新型カラシニコフと判明)
写真 5, 6,
こちらは、ガラスが窪みヒビが発生しているが貫通できず弾き返されている。 弊社の実験データによると、セキュリティガラスの20mm厚は、トカレフ拳銃だと簡単に撃ち抜くことができる。従ってトカレフより威力が低いこと、写真 4,に見られるとおり弾痕の一つ一つが小さいこと、集中して無数に撃ち込まれていることから連続射撃ができるサブマシンガンが使われていることが推測される。 
写真 4 ,7, 8,
更に検証を進めているうちに実に興味深い事実が発見された。他の写真では、弾痕は丸い穴であるが写真4, 7, 8,では横に広がり楕円形の穴が開いている。これは銃弾が直進ではなく横向きに着弾したことを示している。入射角が浅い斜めの貫通弾痕と明らかに区別される。今回の場合、跳弾が生じる条件は少ないことから、弾道学的に大変珍しい現象の「横転弾」が生じたと思われる。これは、重機関銃で使われる50口径(12.7mm)級のボートティル型(弾丸の底部が細くなっており、その形がボートに似ているから付けられた名称、飛翔時の弾尾の空気抵抗を良好にして弾速を高める効果がある) の弾丸に起きる現象である。そのメカニズムは、発射時に装薬(発射火薬)による高温高圧のガスが銃身内の弾丸を高速で押し出す際、ガスの一部が弾丸と銃身の隙間から漏れ発射ガスのエネルギーが正しく弾丸に伝えられない場合や、弾丸がライフリング(弾丸に回転を与え直進性を高めるために銃身内に彫られた溝) に噛み込みが悪く十分な回転力がつかないまま撃ち出された時に生じる現象である。発生の原因は、銃身の磨耗である。 今回至近距離で、しかもわずか20~30発程度の射撃で3発も発生していることから発射した機関銃は耐用年数をはるかに過ぎ、銃身が著しく磨耗した物が使われていたのではないかと推測される。


4. その他の写真

写真 9, は弾丸の入射角度が浅く跳弾となった痕跡である。
写真 10, は船体の強化アルミ構造を貫通しているが位置的に乗務員を直撃する心配はない。
写真 11, はチタン装甲板を貫いた弾丸が更に強化アルミの船体を貫通し室内へ入った痕である。今回最も危険な着弾である。
写真 12, は艦橋全体の被害状況。左舷前方に集中している。

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5.巡視船[あまみ]のデータ 「艦艇資料館」 
平成4年9月28日竣工 総トン数:249トン 全長:56.0m ディーゼル:2基2軸7.000馬力 最高速度:25ノット 乗員:33名 兵装:20ミリ多銃身機関砲1丁
同型艦:くろかみ (平成7年) くなしり (平成10年) みなべ (平成16年) 

海上保安庁 北朝鮮の工作船事案に関するホームページ
http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/news/h14/fushinsen/index.html




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